嘱託警察犬とは?その役割と仕組みを解説
警察犬と聞くと、シェパードやラブラドールなどの大型犬を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、実は「嘱託警察犬(しょくたくけいさつけん)」という制度があり、民間人が飼育する犬が警察の嘱託を受けて捜査に協力しています。つまり、一般家庭で飼われている犬が、一定の試験に合格することで警察犬としての活動を担うことができるのです。
嘱託警察犬は、警察の直轄で育成された「直轄警察犬」と異なり、都道府県警が必要に応じて民間から登録を受けて活用する仕組みです。事件や行方不明者の捜索、災害時の捜索活動など、地域の治安や安全を守るために活動しています。
特筆すべきは、嘱託警察犬には大型犬だけでなく、小型犬も活躍しているという点です。嗅覚能力に優れた小型犬が、現場で大いに力を発揮しているのです。
嘱託警察犬として登録されている犬種一覧
嘱託警察犬には様々な犬種が登録されており、特に優れた嗅覚と訓練への適性が評価されています。以下は、主に登録されている犬種の一例です。
- ジャーマン・シェパード・ドッグ
- ラブラドール・レトリーバー
- ゴールデン・レトリーバー
- ボーダー・コリー
- ドーベルマン
- エアデール・テリア
- シェットランド・シープドッグ
- ミニチュア・シュナウザー
- ビーグル
- パピヨン
この中でも、ビーグルやミニチュア・シュナウザー、シェットランド・シープドッグなどの小型〜中型犬も嘱託警察犬として登録されており、実際の現場で成果を上げています。
小型犬が警察犬として活躍できる理由
一般に警察犬というと、体格や力強さが重視されるイメージがありますが、嘱託警察犬の場合は主に「臭気選別」や「捜索活動」への適性が重視されます。特に、小型犬でも次のような点が評価されることがあります:
- 嗅覚能力が高い
- 動きが機敏で狭い場所にも入れる
- 飼い主との信頼関係が強く、指示に忠実
- 長時間の作業に耐える持久力
たとえば、ビーグルは本来猟犬であり、嗅覚が非常に発達していることから、嘱託警察犬としても有力な候補となっています。また、ミニチュア・シュナウザーやシェルティ(シェットランド・シープドッグ)も、学習能力が高く、集中力があるため警察犬としての素質を持っています。
都道府県別・嘱託警察犬の登録数と主な犬種
以下は、2023年以降度時点の各都道府県別の嘱託警察犬登録数と主な登録犬種です。(都道府県により公開している時点が異なるため、2023年以降と表記) ※調べた結果のみ掲載しています。掲載されている以外の府県にも嘱託警察犬は登録されているのを一部確認済です。
都道府県 | 登録(最新の頭数は変更の可能性あり) | 主な登録犬種 |
---|---|---|
北海道 | 24頭 | ビーグル、パピヨン、柴犬 |
青森県 | 12頭 | (情報未確認) |
宮城県 | 15頭 | (情報未確認) |
茨城県 | 約15~30頭 | トイ・プードル、ブル・テリア、ラブドゥードル、スパニエル |
東京都 | 35頭 | シェパード、ラブラドール、トイ・プードル |
千葉県 | ジャーマンシェパード、シェパード、ラブラドール、ゴールデンレトリーバー | |
神奈川県 | 28頭 | (情報未確認) |
愛知県 | 33頭 | (情報未確認) |
大阪府 | 30頭 | シェパード、柴、ビーグル |
兵庫県 | 22頭 | コーギー、ミニチュア・シュナウザー |
奈良県 | 非公開 | チワワ(実例あり) |
福岡県 | 22頭 | ミニチュア・ダックスフンド、チワワ |
佐賀県 | 8頭 | シェパード、ラブラドール、ゴールデンレトリーバー |
長崎県 | 8頭 | シェパード、ラブラドール |
鹿児島県 | 18頭 | (情報未確認) |
※都道府県によっては、災害時に備えて小型犬の採用が進められている地域もあります。
嘱託警察犬になるための条件と試験内容
嘱託警察犬になるためには各都道府県警が実施する試験に合格しなければなりません。試験は年に1〜2回程度行われ、試験項目は細かく規定があります。参考にまとめてみました。詳細は、日本警察犬協会のホームページに記載されていますので参考にしてみてください。
試験名・項目 | 得点 | 主な内容 |
---|---|---|
G1S, G1, G2S, G2 | 40〜80点 | 服従・脚側・招呼・ダンベル・障害飛越など |
PGH1, PAH1 | 110点 | 高所・臭気選別・銃声対応 |
PAH2/3 | 120点 | 声符・遠隔指示・上級臭気選別 |
PBH1〜3 | 100〜110点 | 警戒・襲撃・護送・高度服従技術 |
PSH1〜3 | 110〜120点 | 足跡追及(印跡追跡幅増加)、服従・休止・銃声 |
PH | 180点 | 総合技能:高難度服従+臭覚+警戒作業 |
- 臭気選別試験:においの違いを識別して対象を見つけ出す力
- 足跡追跡試験:人が歩いた足跡をたどる能力
- 服従訓練試験:指示通りの行動ができるかを評価
試験に合格すると、1年間の任期で嘱託警察犬として登録されます。必要に応じて再試験・更新が行われ、継続して活動することも可能です。
嘱託警察犬の実際の活躍事例
実際に嘱託警察犬が活躍した事例として、以下のようなケースがあります。
東京都:行方不明者の発見 小型犬のビーグルが行方不明の高齢者のにおいを追って発見し、命を救うことにつながった。
福岡県:空き家への侵入事件で犯人の追跡に成功 ミニチュア・シュナウザーが容疑者の遺留品のにおいから移動経路を特定。
これらの事例からもわかるように、小型犬でもその特性を生かして地域の安全に貢献しています。
嘱託警察犬と一般家庭の関わり
嘱託警察犬は、家庭犬としても生活しています。そのため、日常のしつけや健康管理、食事、トレーニングなど、飼い主との協力体制が非常に重要です。家庭で育てられているからこそ、より細やかなケアや信頼関係の構築が可能になり、活動にも良い影響を与えています。
さらに、警察犬としての活動は地域の防犯意識向上にもつながり、子どもたちへの啓発活動などにも活用されています。
まとめ
嘱託警察犬の制度は、民間人と警察の連携を象徴する存在です。大型犬だけでなく、小型犬もその優れた嗅覚や機動性を生かして重要な役割を果たしています。今後はさらに多様な犬種が活躍の場を広げる可能性があり、地域社会との関係もより深まっていくでしょう。